千秋に扮するために一度帰宅した千春は、私服に着替えリップを塗って束ねた髪を降ろしてから髭グマのクリニックに向かった。
クリニックの入口に到着すると田村が待っていた。
「千秋さん、ご無沙汰、、、俺のこと覚えてる?」
「田村くん、、、、、、ごめんね、、、私のせいで迷惑かけたみたいで、、、、」
「あー千春ちゃんから聞いた?、、、、、、俺も詳しい説明できないから中で髭グマと一緒に説明を聞いてもらっていい?」
田村を先頭にクリニックに入るふたりは髭グマの待つ診察室に向かった。
「先生、例の装置のことだけど」
「あー、伊崎さん、、、、じゃなくて、千秋さんね、、、、、、、、いまバタバタしてるから手短に済ませますね、、、ではそこ座ってください」
千秋の正体をしっている髭グマに緊張した様子の千春は、軽く会釈だけして椅子に座った。
「いやー千秋さん、、ちょっと大変な事態でね、、、、、千秋さんが以前使ったSNDMっていう股関節改善プログラム用の装置があったでしょ?あの装置に内蔵されている高度なAIが千秋さんの稀に見る淫乱なデータで学習してせいで誤作動を起こしてしまってね」
「うちは修理費とか、、、、む、無理です」
母子家庭の千春は、毎日自分の為に働いてくれている母親の顔が目に浮かんだ。
「お金で解決するならうちの親に何百万円でも出して貰いますよ、先生っ」
「いや、修理費はメンテナンス契約の範囲に含まれるので問題ないんだが、問題は誤作動の原因を特定するために必要な異常データのサンプルなんだ」
何百万というキーワードに大金を請求されると怯えた千春だったが、そうではないと理解し胸を撫でおろした。
「その異常データのサンプルがないとアメリカのメーカーが修理できないと言っててね、異常データのサンプリングは当事者の千秋さんしか出来ないのでお願いしたいんだが」
「異常データ?、、、、サンプリ、、、、」
聞きなれない言葉に理解できない千春。
「いろいろ調べたら、千秋さんは1万人に1人と言われる淫乱体質のようで、治療器具の刺激でスコアが上がったり、恥ずかしくてスコアが上がるような女性のサンプルはとても珍しいので君にしかできないんだよ」
「そんな、、い、、、い、、淫乱って、、、、」
小さく消え入りそうな声で訴えるが、二人には届かない。
「そうゆうことか、、、、、頼むよ千秋さん、、、、俺、本気でオリンピックを目指したいんだよ」
「ご、ごめんなさい、、、、、、先生、、、わ、私、どうすれば」
鬼気迫る演技の田村に千春は圧倒される。
既に悪い予感がしていた千春ではあるが、数百万円の修理費を負担させられることに比べれば全て受け入れなければならないと覚悟させられていた。
既に千春への洗脳は始まっていたのだ。
「修復に必要な異常データのサンプルをこの測定器を装着して測定する必要があります」
髭グマは紙袋から取り出し、手のひらに乗せてふたりに見せた。
それは小さな卵を二つ連ねたような形状でシリコン製の物体であった。
薄い水色をしたそれは『膣トレボール』と言われる女性が膣の締まりを良くしたり感度を良くするためのグッズであった。
それも測定器と言う髭グマに田村は笑いを堪えた。
「これを装着して、千秋さんが異常データを検出したときと同じ状態になってもられば良いわけです」
「そ、、、、、そ、それって、、、、」
詳しい内容は理解できないが、ただごとではないという状況とあの忌々しいこのクリニックで体験した『寸止め地獄』という恐怖がもう一度訪れるであろうことは理解できた。
「うちのクリニックではあんな状況を再現することは難しいので、田村くんに相談してふたりで測定してきてほしいのだが、、、、、、、この前の集中治療もひとりで乗り越えた千秋さんなら大丈夫だよね?」
千春のことを性のおもちゃにしようと企んでいた髭グマだったが、千春の思わぬ行動と小林の邪魔により阻止された髭グマは言葉に嫌みを込めざるを得なかった。
「わかりました、やります、、、、千秋さん一緒に頑張ろう」
田村が勝手に了承して千春に承諾を迫る。
「えっ、、あ、うん、、、、で、でも、、、、どうすれば、、、」
「この測定器は携帯と連動させて使います、以前モニターに0から100のスコアが表示されていたのは覚えてますね?」
「は、、、、はい、、、、覚えてます」
千春はそれを思い出すと同時に、そのスコアに自分の快感を振り回されたことも同時に思い出した。
「そのモニターの代わりが携帯電話になります、そのアプリは田村くんの携帯に連動させますので、あとで設定方法をお伝えします」
「はい、わかりました」
「測定方法は陰部や胸など淫乱な女性が気持ちいとされる部位を刺激したときの体内信号を測定器が感知するとスコアが上がります、、、、、稀に裸を見られたりすることで恥ずかしくてスコアが上がる淫乱なケースが1万人に1人くらいいるそうです」
メモをとりながら説明を受ける田村の真剣な眼差しに、卑猥なことばかり気になる自分が恥ずかしくなる千春だった。
「測定時の注意点は前回と同じです、スコアが100になれば終了、0になったらエラー終了となり、万が一、エラー終了になった場合にはシステムをアメリカのメーカーでリセットしてもらってから翌日改めて測定を開始する必要があります、、、もちろん、有料メンテナンスになってしまいますので気を付けてください」
「は、はい、き、気を付けます、、、、、スコア100で終了、、、0になったらエラー終了、、」
「この測定器は前回と違って頑丈にできているので締め付けても問題ありませんが、オーガズムのデータは解析時にノイズになるので避けてください、、、、、万が一イクときは計測器の電源を切るか測定器を外してからイッてください」
千春の表情が一気に曇った。
予想はしていたがやはりそういうことだと肩を落とす。
「普通の女の子は好きでもない男子に胸や陰部を触られたり、大勢の男子の前で裸になった状態で気持ちよくならないからイッたりしないとは思いますので、スコアだけ100になれば別に無理に気持ち良くならなくても大丈夫ですよ」
「それなら千秋さんが気持ち良くならなければ、スコアが上がってすぐ終わりそうですね、、、、よっかったー、ねぇ千秋さん」
「えっ、、、あ、、、うん、、、そうね、、、」
(そ、そうよ、、、、私が気持ちいいのを我慢すれば、、、、すぐ終わらせる、、、、)
千春は男たちの誘導に乗せられ、希望の光をその一点に見出した。
「測定が終了したら田村くんはアプリからログデータをエクスポートしてメールで送付してください、私がアメリカに転送して解析をしてもらいます、アメリカのメーカーがその解析データで修理が出来れば解決です、田村くんのトレーニングが開始できます」
(これでいいんだろ、、、まったく大人を脅迫するとはたいしたガキだぜ)
「その解析データがとれない場合はどうなるんですか?」
「その場合は、新しいマシンを購入することになるね」
今回の首謀者は田村であった。
髭グマのクリニックに訪れた田村は、髭グマの千春に対する行為の数々を脅しの道具にしてこの計画への協力を強要していたのだ。
「そんなぁ、、、、あのマシンってすごく高いですよね、、、、」
記憶の片隅にある途方もない金額を思い出し、新しく購入することを考えるとなんとしても言われた通りに従うしかないと千春は観念した。
「測定は明日の朝8時30分から開始する設定になってますので、朝8時くらいから装着して準備ををお願いします、、、、、いいですか?」
「あっ、、、、は、はい」
状況を受け止めきれない千春は強い口調の大人の言葉にそう返事をするしかなかった。
(やだ、、朝8時半ってことは登校時間だ、、、、授業中に測定するってこと?)
また押しに弱い千春の弱点が露呈される。
「あと、生理周期アプリはまだ使ってますか?」
「えっ、、、は、はい、、、、、」
同じクラスの男子に生理のことを聞かれたくない千春は田村の顔を気にしながら小声で答える。
「万が一のことがあってはいけないので、その生理周期アプリも田村くんに共有しておいてください」
髭グマに依頼していない話しの展開に田村も呆気にとられていた。
(ふふ、これもサービスで付けておくよ、、その娘はもう用済みだ、好きに使って楽しんでくれ)
「はい、わかりました、、、千春ちゃんどのアプリ?」
「えっ、、、、うん、、、えーと、、、、、こ、これ、、、、、、」
顔を赤らめながらも必死に平然を装い、田村の携帯に生理周期アプリを同期させる。
「あーなるほどね、このブルーの表示が安全日か、、、ということは4日後から安全日ってことですね、、、千秋さん前みたいに『中出ししてー』なんて言わないでよ、明日はまだ危険日なんだから」
「やだ、、そんな、、、」
髭グマのクリニックで我慢できなくなり、中出しを哀願した自分を思い出し更に顔が赤くなる。
「そういうことだね、、、、あと最後にこれだけは守ってもらいたいのだが、、、、マスコミなどにこの情報が洩れたら今までにこのトレーニングをしてきた有名選手たちの尊厳を傷つけることになるので、このことは絶対に口外しないように、この3人の秘密だ、わかったね」
「はい、わかりました、それは約束します、、、なっ、千秋さん」
「う、うん、、、あ、はい、、、や、約束します」
「では詳しい測定方法は、田村くんに個別に送るので、ふたりで協力してお願いします、トレーニングを待ってる他の選手もたくさんいるのでなるべく早くお願いしますね」
クリニックを後にした千春と田村は、商店街を歩いていた。
「なぁ、千秋さん、、、俺があの装置でトレーニングすることって絶対内緒な、、、、肛門に器具を入れるらしいからさ、、、こんなこと他の奴に知られたら恥ずかしくて生きていけねぇよ、、、そ、その代わり千秋さんのことも絶対に外に漏れないようにするからさっ、、、これは二人の秘密な、、」
「う、、、うん、、、そうだね、、、秘密ね、、、、」
肩を落としながら歩く千春だが、会話の内容が内容だけに周りに知り合いがいないか心配しながら歩いている。
「でも困ったなぁ、明日の朝から測定開始だけど俺たち授業あるし、、、千秋さんも大学の授業あるよね?」
「そう、私もそれ思ったんだけど、そんなこと言える雰囲気じゃなかったよね、、、今日の髭グマなんか怖かったし、、、、、、どうしよう、、、」
獲物を奪われて不機嫌な髭グマの態度が、自分が迷惑をかえて不機嫌になっていると勘違いしていた。
「でもしょうがないよね、、、測定器がそういう設定になってるなら午前中はスコアがゼロにならないようになんとか頑張ってください」
「そうよね、、、、放課後まではひとりでやるしかないよね、、、」
田村もうまく千春の勘違いに乗っかり、あたかも味方のフリをして誘導していった。
「あーでも、明日から文化祭の準備が始まるから放課後も時間があんま無いな、、どうしよう、、、、、、あ、そうだ、、、千秋さんOGだからうちの制服持ってるよね?」
「えっ、、、あ、うん、持ってるけど、、」
「そしたらさぁ、制服を着てうちの学校に来てよ、、、、千春ちゃんにそっくりなんだから千春ちゃんのフリして学校で測定しよう、、、うん、それがいい、、千春ちゃんが帰った放課後とかにしよう、、そうすれば文化祭の準備しながらでも手伝えるから」
「うん、、、わかった、、、、そうするね、、、、」
「じゃあ、、、明日の放課後に学校来てね、、、、そしたらこれ、測定器」
紙袋に入った『測定器』という名の膣トレボールを手渡され、千春は急いでカバンに入れる。
「じゃあね、千秋さん、、、詳しくはメッセ送るね、、、じゃっ明日学校でっ」
「じゃ、じゃあ、、、、、、また、、、、」
千春は逃げるかのように田村から遠ざかり家路についた。
