「ねぇ、ほんとに山田のお父さんって、この治療できるの?」
恵梨が素になって山田に尋ねた。
「別に、歯科医だったらどこでも相談に乗ってくれると思うよ、マウスピースとか使った治療が一般的って言ってたけど」
演劇モードじゃない山田は、どこか冷めたい感じがある。
「保険は利く?」
「利かない」
「まじかぁー、、、お金なんか、無いよぉぉぉ」
床にゴロンと転がった恵梨が、また山田の目の前に寄ってきて目を輝かせる。
「ねぇ、、、お父さんに治療法を聞いて来てよ、、、ねぇっ、お願いっ」
「別にいいけど、まだ『歯ぎしり』が原因かどうか確定してないじゃん、、、、寝てるとき『歯ぎしり』とかするの?」
「えぇー、、、寝てるときなんて、、、自分でわかんないじゃん」
「ほら、、、、先輩に、、、い、言われたこととか、、ないの?」
小栗が恐る恐る話に割って入る。
「バカ、、エッチ、、変態っ、、、あの人と泊まったことなんて無いわよ」
恵梨の発した『あの人』という表現が、交際経験のない男子たちには妙に大人びた言葉に感じた。
と同時に恵梨はまだ処女なのかもしれないという微かな希望を持ち始めた。
「とりあえず、今からここで寝てみろよ、『歯ぎしり』しないか聞いててやるから、、」
どうしても話題を真面目な話に戻したい藤原部長は、恵梨を黙らせたかった。
「寝れるかなぁ、、、こんなところで、、、、、、、よっと、、」
恵梨は、床の体操用マットにゴロンと横になった。
「なんか枕になるものない?、、、あ、その衣装でいいや、投げてっ、、、、さんきゅ、、、、、おやすみぃ」
恵梨がゴロゴロする度に、男子たちは目のやり場に困った。
「では、さっきの続きね」
やっと静かになった恵梨を横目に、藤原が議事を進める。
「観劇の予定はさっき言った二つね、、で、明日からの春休み合宿は3日間、昨年と一緒で、恵梨は女子だし家が近いから通いで、男どもは学校に泊りになるので準備しておくように、、合宿の内容は…」
恵梨が隣で寝ていることで集中できない男子たちだったが、合宿の予定を細かく打合せし始めた。
(私だけ、合宿は通いかぁぁ、、つまんないのぉ、、、、うふっ、男子の中に女子が一人でお泊りしたら、きっと、、やらしいことになるわよね、、、、、やだ、私、何考えてんの、、、、だめ、、、寝なきゃ、、、、)
男子に囲まれて寝るという行為に少しの危機感と緊張感を覚えた恵梨は、意識しないようにすればするほど淫らな妄想が頭をよぎってしまう。
(このまま、寝ちゃったら、アチコチ触られたり、制服を脱がされたり、、、キャーッ、、、5対1とか、、、、、やだ、、、また変態な妄想しちゃった)
先輩に告られてなんとなく付き合ってしまった恵梨は、先輩と別れて他の演劇部の男子と付き合うシミュレーションを何度もしていた。
後輩の菅田も含めた男子部員たちは皆んな甲乙つけがたく、それぞれに良いところがたくさんある。
先輩たちが卒業して女子がひとりになったこの逆ハーレム状態に、いろんな期待が膨らむ恵梨だった。
(だめだめ、、変なこと考えないで、寝ることに集中しなきゃ)
妄想を掻き消そうと、横向きの姿勢を仰向けに変え、頭の後ろで手を組んだ。
と、そのとき男子たちの声が急に止まり、空気が固まった。
(えっ、、なに?)
恵梨は目を閉じたまま様子を伺いながらも、大きく息をしてあたかも寝ているように装う。
(あっ、、、、私、、、)
恵梨は部屋で寝ている感覚で、両足の膝を立てていたことに気付いた。
それも足は閉じることもなく少し開き、スカートの裾が腰の方にずり落ち、生足が完全に露出していた。
男子たちからの場所からは、角度的に見えないはずだが、少し移動すればスカートの中が丸見えになるに違いない。
「恵梨ぃぃ、、、、もう寝たかぁ?、、、、、、、、、」
少しの静寂の後、小栗が小さな声で話しかける。
(やだ、、、みんな私に注目してるんだわ、、、、)
目をつむったままでも、足を大胆に露出している自分の姿は想像ができる。
(どうしよ、、起きた方がいいかな、、、、、え、、、、どうしよ、、、、)
迷っている間に、男子たちの方からゴソゴソと物音がする。
「バカ、やめとけって」
「大丈夫だって」
誰の声かわからない程の小さな声で、男子たちの間で葛藤のようなやり取りが行われている。
