高い天井に高級そうなシャンデリア、全てが気品に満ちた空間に見える。
ホテルのコンシェルジュと目が合うと悪いことをしている訳ではないのに、ついつい挙動が怪しくなってしまう。
(あった、、、エレベーター、、、、、えーと、、18階か、、)
エレベーターホールに着くとタイミング良く扉が開いたので、なるべく落ち着いた動きで乗り込むと18のボタンを押した。
(良かったぁ、、、、ルームキーが無くても18階までは行けそう、、)
普段、部屋に閉じこもって家事だけをしている美里にとっては、小さな冒険のようなものだった。
ホテルの18階に到着した美里は、お客様の待つ部屋を探す。
(1805、、、、、ここか、、、、あっ、、、そういえば、、この服で施術するのかぁ、、、、胸元が空いた服を着てきちゃった、、、、、やだ、、、気を付けないと、、、)
ピンポーンッ
ドアのチャイムを鳴らすと中から『はいはいー』と明るい声が聞こえ、すぐにドアが開けられた。
中からテレビで見たこと有るような無いような顔ではあるが、見るからにプロ野球選手っっぽい体型の男が現れた。
男は紳士的に美里が中に入るまでドアを手で押さえ、美里が中に入るとドアを閉めて部屋の奥へとエスコートしてくれる。
その後ろ姿は上下お揃いのスエットの上からでもわかるくらいがっしりと鍛えられた肉体が伺える。
「な、な、ナイスチューミーチュー、、アーユー、カトウ?」
「お、オーイエーイ、、、、加藤、、加藤、、まぁ、入ってよ」
案の定、英語はほとんど出来なさそうな脳みそ筋肉人間のようだ。
自分の英語力が必要ないという安堵感と共に、筋肉への期待感が高まる。
(ふふっ、、なんか人の良さそうなお客さんで良かった、、)
さすがに高級ホテルだけあって入り口にはグラスやミニバーが綺麗に並べられている。
ブラウンを基調とした家具や壁紙を少し暗めの間接照明が照らす。
こんな清潔感のある高級ホテルに入るだけで非日常を感じられ気分が高ぶる。
(タバコの匂いはしないわね、、、さすがプロ野球選手)
匂いに敏感な美里は服にタバコの匂いが着くことを異常に嫌う性質があった。
部屋の中に進むと大きなベッドが二つ並び、綺麗な夜景が広がる窓際のテーブルにもう一人の男性が座っていた。
加藤より少し細身のその男性は美里を見て軽く会釈をした。
テーブルにはトランプが散らばっているので、暇つぶしにカードゲームでもやっていたようである。
「えーと、、、日本語オッケー?」
「ノー、ノー、、、アイムソーリー、、、、あー、、、マイネームイズ、ミサト、、、アイム、フロム、キルギス」
(あっ、、しまった、本名を言っちゃったぁ、、、まいっか)
「おーっ、、みさとちゃんね、、、日本人みたいな名前だね、、、顔も日本人っポイし、、、、源氏名かな、、、デリヘルみたい、、、、」
日本語が話せない設定を守るため、デリヘルという単語には触れずメニューを見せてコースを選択してもらった。
ハーブオイル90分コースを選択した加藤に施術用の紙パンツを渡して着替えるようにバスルームを指差した。
(オイルマッサージかぁ、、、、、、紙パンツ姿だと、目のやり場に困るから嫌なんだよねぇ、、、いかん、いかん、こっちが毅然としてないと、お客さんの方が照れちゃうからね、、、)
努めて真顔になる美里は、加藤が着替えて帰ってくる間にバスタオルをベッドに敷き詰める。
タイマーを終了の5分前にセットすると、着替えて帰ってきた加藤にベッドを指差してうつ伏せで寝るように促した。
なるべく紙パンツ1枚姿の加藤の体を見ないように下半身にバスタオルを被せる。
「この娘、可愛くないっすか?、、、何歳くらいかな」
窓際のテーブルに座る男が、日本語で美里にはお構いなしに会話を始めた。
もちろん美里も内容が理解できないフリを続けるしかない。
美里はうつ伏せで寝る加藤のお尻に跨り、ハーブオイルの入った籠をベッドの脇に置くと手にハーブオイルを付けて肩の方からマッサージを始める。
部屋にハーブの優雅な香りが広がり、一気にリラックスした雰囲気になる。
「だよなっ、可愛いよな、、、、20歳代前半じゃね?、、、、祐二、、、お前、ちょっと1時間くらい外出してこいよ、、、2人きりの方が、なんかありそうじゃね、、、」
(もぉぉぉ、、この人たち、、私が言葉を理解できないと思って好き勝手、、、、、、でも、ふふっ、20歳前半に見えるのか、、、私もまだ捨てたもんじゃないわね、、、芳くんにも聞かせてやいたいわ、、、、ゴメンね、たぶん貴方たちと同い年くらいよ、、、)
「やだよ、、、俺も加藤さん終わったら、マッサージしてもらおうかな、、、なんか、お尻が超柔らかそうじゃない?」
