「えっ、、あ、はい、、今日は、ラブドールのご紹介に伺いました」
調子が狂ったスーツの男は、完全に尾崎のペースに乗せられている。
「おっ、いいねぇ、、ラブドール、、愛の人形、、、、っで、保坂よぉ、ラブドールってなんだよ?」
尾崎は、後ろを振り返って保坂に尋ねる。
「ダッチワイフですよ、、ダッチワイフのリアルな奴です」
保坂は、テレビを見ながら、振り返ることなく答える。
「あー、ダッチワイフね、、、面白そうだな、、、、、よしっ、、買った!」
尾崎の顔は、冷やかしのようには見えず真剣な顔でそう言った。
尾崎の行動は、常人に考えられない奇想天外なところがある。
芸能界を長く生き抜いてきたのは、こういった発想の持ち主だからだろう。
驚いているのは、スーツの男の方だった。
「えっ?、、いや、、説明を聞いて頂かないと、、、お値段もまだお伝えしてませんし」
「で、いくらなの?」
「えーと、、その、、、、ひ、ひゃく、120万円です、、」
自分でも高いと思っているスーツの男は、目をつむって、うつむいたまま価格を伝えた。
「高けぇなぁ、、、まぁ、でも、それだけのものなんだろ?、、いいよ、キャッシュでいいの?」
スーツの男も驚いていたが、保坂も流石に止めに入ろうと寄ってきた。
「社長ぉ、、、いくらなんでも、それは、ちょっと、、」
バタン、ドンドンドン
2階で菜緒が、ドアを開けて歩く音が響いた。
「おっ、、風呂だ、、保坂、こっちは、いいから、、モニター、、アレして」
保坂は2階を見上げてから、しぶしぶ尾崎の部屋に向かった。
「社長ーっ、、、本当にダメですからねーっ」
尾崎に念を押しながら保坂が奥の物置部屋に入ると、そこには小さなモニターにいくつかの機材が繋がっている。
モニターに接続されたスイッチを切り替えるとそこには、菜緒の部屋とバスルームの映像が映し出されていた。
部屋のソファーに座る菜緒はカメラのことなど知る由もなくテレビを観ている。
「しかし、こんな盗撮、、、犯罪だろ、、、、あっ、でもこれチャンスかも」
菜緒の使う部屋とバスルームには、幾つかの隠しカメラが設置されていた。
もちろん、菜緒は気付くこともなく普通に生活している。
尾崎たちは毎日、このモニターで菜緒の私生活を監視しているのだ。
菜緒がオナニーをちゃんとしてるかチェックする為でもある。
しかし菜緒に好意を寄せている保坂にとっては、大好きな女性の裸を見るだけでいつも蛇の生殺しのような心境だった。
今日も菜緒はカメラを気にすこともなくお風呂に移動し衣服を脱ぎだした。
「よーし、今日は菜緒ちゃんを、オカズにっと、、ふふっ」
保坂は部屋に鍵をかけ、おもむろに肉の棒を取り出しモニターを見ながらしごき出した。
今日は尾崎が部屋に居ないこのチャンスに、いつも抑えている欲望を開放しようと思ったのだ。
「うおおおっ、、菜緒ちゃんの裸ぁぁぁぁ、、うぅぅぅ、触りてぇぇ」
左手にティッシュを3枚重ねて持つと、立ったまま下半身裸でモニターにかぶりつく。
素人童貞の保坂は、小学1年生からオナニーを始めたという生粋のオナニストだ。
バスルームで体を洗う菜緒が映るモニターを見ながら、口を大きく開けて高速で肉棒をシコシコとしごく。
「う、うっ、、、うおおお、、」
オフィスではソファに座るスーツの男が、尾崎にラブドールの説明を一通り終えていた。
「オッケー、オッケー、だいたいわかった、、、ようは、魔法のダッチワイフってことだな、、いいよ、買うよ」
必死で説明した内容を、一言で片付けられてスーツの男は呆然とした。
「え?、、、信じてくれるんですか?」
説明している本人が信じていない内容を、尾崎は簡単に信じてくれたのだ。
「嬉しいっス、、今まで信じるどころか、誰も話しさえ聞いてくれなかったのに」
スーツの男は、涙目で尾崎と握手をした。
「ありがとうございますっ!、、そしたら、お代は結構です」
スーツの男が、真面目な顔でそう言った。
「へっ?」
今度は、尾崎が呆気にとられる。
「実は、商品の説明をして、更にお値段を伝えた上で、買うと言ってくれたお客様には、無料で贈呈していいって言われてまして、、、在庫もこれ1台だけなんです」
スーツの男は、満面の笑みで説明資料を片付け始める。
「へっ?、、そうなの?、、そんなんで、お前さんは給料が出るの?」
「はい、前金で半額もらってて、お客様が見つかったら残りの半金をもらえる事になってますっ!」
「あ、そうなのね、、、ま、とりあえず、、、良かった、、ね」
尾崎は、なんとなく意外性の勝負に負けたような心境で、やり場のない想いだった。
「はいっ!、、では、私は、これで、、、あっ、箱の中にマニュアルも入ってますので、、、失礼しますっ!」
スーツの男は怪しんで返品されるのが怖くて、逃げるように帰って行った。
「魔法のダッチワイフねぇ、、、」
尾崎は事務所を出て行くスーツの男を見送ると、頭を掻きながら段ボール箱を眺める。
