「おーい!、、保坂よー」
監視モニターのある物置部屋からガタッガタッと、物音がして保坂が飛び出してきた。
「は、はいっ、、、」
保坂が手に持ったティッシュを握り潰し、後ろに隠しながら近寄ってくる。
「このダッチワイフ、、、ダダでもらっちゃったよ、、、これ売れねぇかな?」
尾崎が段ボールを開けて中を覗く。
中にはシリコン素材のようなラブドールがあった。
「売れる訳ないでしょぉ、、、こんな薄汚いのぉぉ」
確かに汚れている訳ではないが、何処となく薄気味悪い感じがしていた。
「なんか、好きな女をコピー出来るとかどうとか言ってたぞ、、ちょっと、そのマヌ、、マニョ、、、、その説明書を読んで試してみろよ」
「マニュアルね、、、へいへい」
まったく興味がない保坂は、渡されたマニュアルをペラペラとめくる。
「コピーラブドールねぇ、、、あなたの好きな女性と感覚がリンクするっ!、、だって、、、っな訳ないっつーの」
保坂はマニュアルを段ボールの中には投げ捨てた。
「どうだい菜緒は、オナってっか?」
「いやぁ、全然っスね、、、アレは処女どころか、オナニーの仕方も知らないんじゃないっスかね?」
「そっかぁ、、困ったもんだなぁ」
「しかし、大丈夫なんスか?、あんな盗撮?」
「所属タレントの契約書に、ちゃんと書いてんだから、読まねぇ方が悪いだろーよ、、、お前も、その盗撮を見ながら、抜いといて、よく言うわなぁ?」
「あ、バレてました?、、あはは」
保坂は丸めて握ったティッシュをゴミ箱に捨てた。
「俺は、木暮っチたちと麻雀だからよ、今から出掛けてくっから、、そのダッチワイフのマニョなんたら読んで、試しとけよっ!」
尾崎は夜だというのに、お気に入りの帽子をかぶって玄関に向かう。
「へいへい、、お気をつけて~」
保坂は尾崎が玄関を出るのを確認するとダッシュでモニターのある部屋に戻った。
「あちゃー、、、遅かったかぁ」
菜緒はバスルームを出て部屋着をすでに着ていた。
菜緒の部屋着は、白いヨレヨレのTシャツに膝が伸びきったグレーのスウェットだった。
「しかし、、こんな、可愛げのない格好を週刊誌に撮られたら、一発アウトだなぁ、、」
モニターに映る菜緒は、部屋に戻ると下着になり鏡に向かってグラビア用のポーズの練習を始めた。
菜緒の最大の武器であるスラッとした脚と張りのあるお尻、菜緒はお尻を鏡に突き出したようなポーズを研究していた。
「おっ!、、ゲームして寝るだけかと思ったら、、、もうワンチャンあるか?」
保坂は、モニターを見ながらティッシュを3枚重ねて準備をする。
「あ、そういえば、俺、ラブドールって使ったことないな、、、、いかんいかん、オナニスト失格だよ」
保坂はスーツの男が置いていったコピーラブドールを部屋に運び、箱から取り出すとベッドの上に寝かせた。
尾崎の自宅兼寮のこの家には保坂の部屋は無く、月の半分を寝泊まりするこの家ではいつもこの仮眠用のベッドで寝ていいことになっている。
「よいしょっと、、、へぇー、結構な重量感だなぁ、、、えーマニュアル、マニュアルっと」
保坂はラブドールの箱に入っていたマニュアルをペラペラとめくった。
「まず、『①タブレットの電源を入れます。』と、、、、タブレット、タブレットと」
段ボールから10インチほどのタブレットを見つけて取り出すと電源ボタンらしき小さなボタンを押してみた。
「お、すげー、、こんな機種、見たことないぞ、、これなら売れんじゃね?」
ピローン
タブレットの起動音が鳴る。
「ほんでっと、、、『②リンクさせたい女性のDNAをラブドールの口に含ませます。』、か、、、まぁ、やってみるか、、、DNAかぁ」
保坂は部屋を出て、菜緒の髪の毛を探す。
「おっ、これでよくね?」
さっき、菜緒がハーブティーを飲んでいたマグカップに目が止まる。
薄っすらとリップが付いた箇所をラブドールの口に当てた。
「はい、口に入れましたよーっと、、、え?、、マジ?、、、まさかね」
ラブドールの口が一瞬、動いたように見えた。
ピコーン
「おっ?、なんか始まったぞ、、、『③DNAスキャンが終了するまで3分ほどお待ちください。』、、ってカップラーメンかっ!、、おいっ、、、、ってね」
タブレットに完了率のパーセンテージだと思われる数値が表示された。
「3分ね、、、へいへい、いくらでも、待ちますよ、、、、げげっ!、、菜緒ちゃん、、サービスタイムもう終わりかよ、、」
モニターに目をやると、菜緒が部屋着を着てテレビに向かいゲームのコントローラーを握っていた。
保坂は手に持っていたティッシュを丸めて捨てた。
菜緒のサービスタイムを諦めて、コピーラブドールのマニュアルをペラペラとめくりだした。
「しかし、手が込んでるなぁ、、誰が作るんだよ、こんな詐欺商品、、、、どうせ最後に、『ここから先は有料です。』ってオチだろ?、、ははっ、誰が信じるんだよ」
保坂は何度も何度も出会い系サイトに騙されているので、性格が卑屈になってた。
「えーなになに?、、『身体リンク機能ではスキャンしたDNAの持ち主と有機体としての身体をリンクさせ、タブレットでオン/オフの切り替えが出来ます。』、、難しいな、、ようは体がコピーされるってことね」
保坂はバカにしたようにほくそ笑みながら読み進める。
「ほんで?、、、『また、感覚リンク機能ではスキャンしたDNAの持ち主と性的な感覚のみがリンクされ、タブレットでオン/オフの切り替えが出来ます。』と、、ほぉー、タブレットで操作するんだ」
