翌朝、保坂は珍しく菜緒より早く起きて朝食を作っている。
ソワソワと階段の方を気にしながら菜緒が降りてくるのを待っていた。
時より監視モニターがある物置部屋に戻り、奈緒が起きているかを確認した。
(あっ、起きた)
モニターに洗面所で歯磨きをしている菜緒が映っていた。
保坂はキッチンに戻ってフライパンに卵を割って落とした。
しばらくすると階段から足音が聞こえる、心なしかいつもよりその足音は元気がない。
降りて来た菜緒は無言でダイニングテーブルに座った。
「あっ、、、菜緒さん、、、お、おはよう」
「あー、うん、、、おはよう」
明らかに元気がない。
無理もない、昨晩は人生初めての絶頂を意味がわからない状態で迎えたのだから。
昨晩もあの後しばらく辺りをキョロキョロしたり、カーテンを開けて外を見たり落ち着かない様子で朝方まで寝れずにいた菜緒。
保坂は監視カメラの存在が見つからない心配で菜緒が寝静まるまでその様子を見守っていた。
「どうしたの?、、、、、なんか、、、、元気ないみたいですけど?」
「え?、、、うーん、、、なんとなく」
昨晩のことを説明できない菜緒を一人で考え込んでいた。
「今日はハムエッグとトーストでいいですか?」
フライパンから更に香ばしい匂いのするハムエッグを移すと菜緒に持っていく。
「今日は朝ごはんいいや、、、なんか食べる気がしない」
「ど、どうしたの?風邪?、、、、来週からドラマの本読みだよ?」
保坂はなるべく平静を装って努めていつものように菜緒に接する。
ランチマットに上に皿とお箸を並べる。
「元気ないなら、無理にでも食べた方がいいよ」
「ねぇ、、、、昨日、、、霊がどうとか言ってなかったっけ?」
菜緒が保坂の方を見つめながら語り掛けた。
普段は小憎たらしい娘だが、本来はまだ18歳の幼い少女だ。
昨晩証明されたようにまだ経験も少ない処女の少女は明らかに動揺している様子だった。
「えっ?、、、、あー、、、霊ね、、、、うん、ちょっとそんな気がしたんだよね」
「私の部屋も昨日、、、、、でたかも、、、、、、、」
菜緒は椅子の上に脚を上げて、体育座りで膝を抱える。
上下ジャージ姿の菜緒は手も袖の中に入れ、ファスナーを一番上まで上げて口も隠している。
「えー、マジで?、、、、金縛り?」
「金縛りというか、、、、、まぁ金縛りみたいな、、、、、保坂も金縛りだったの?」
チンッ
トースターのタイマーが音をたてパンが焼けたことを告げる。
保坂は自分の分のハムエッグとトースト2枚の皿に乗せてダイニングテーブルに向かった。
「コーヒーでいいですか?」
「あ、うん」
マグカップに2人分のコーヒーを注いでひとつを菜緒の前に置いた。
「金縛りかなぁ、、、、、、なんか人の気配みたいものを感じただけというか、、、、夢かもしれないし、、、、」
「そうっ!私もっ、、、、誰かいる感じがしたの」
菜緒は脚を降ろすと前のめりで保坂に話しを続ける。
「なんかね、、、、、、んー、、、、、、人が近くにいて、、、、」
説明しようとする菜緒だが、幽霊にイカされたなどと言える訳もなく言葉を詰まらせる。
ひとりで勝手に顔を赤らめる菜緒を可愛いとする感じた保坂は悪い虫が騒いだ。
「え?気配がしただけ?」
「んー、、、、、気配がして、触られたような、、、、ないような」
マグカップを両手で持ってコーヒーに目にやる菜緒は、コーヒーを飲むためではなく目を逸らすためにそうした。
「幽霊に触られたの?マジで?、、、怖っ、、、、、うちの幽霊は触ってこなかったけど、、、、どこを触れたの?」
「どこっていうか、、、、、、、、、」
「えっ、、痛い感じ?、、、、、前に幽霊に首を絞められたって聞いたことあるけど」
菜緒の口から気持ち良かったどうか聞き出したい保坂はなんとかその言葉を誘導しようとする。
「そんなんじゃなくて、、、、痛くもしてこないというか、、、、むしろ優しい感じではあったんだけど、、、、」
「へぇー、優しかったんだ、、、そういえば俺の霊も、なんか包容力があるというか気持ちがいいというか、、、」
保坂は自分の愛撫が褒められたようでニヤニヤしてしまう。
「で?、、、その幽霊は」
そう言い掛けたところで尾崎社長が起きてきた。
「おはようさんっ、おっ、保坂が起きてるなんて珍しいな、今日は雨か?」
「社長、おはようございます」
いいところで邪魔が入ったことで不貞腐れて挨拶をする保坂。
「どうした菜緒、そんな格好して、、、、、風邪か?」
「んー、風邪というか」
「あ、そうそう、ドラマの台本をもらってきました」
魔法のコピーラブドールの存在を知っている尾崎社長に余計な詮索をさせまいと保坂は菜緒の言葉を遮った。
受け取った台本に目を通す尾崎は保坂のコーヒーを勝手に飲んだ。
「あーまたー、人のコーヒーを、、、、いま新しいのいれますよ」
「ありがとさん、、、あ、そうだ、、、、どうだった?あのラブ、、、、、ラブ、、、ラブワイフだっけ?」
「ちょっ、、、、なに言ってんですかっ、、、、、まだ試してないですよっ、、、、、奈緒さんの前でやめてくださいよ」
保坂はコーヒーを注ぐマグカップからこぼしそうになりながら動揺する。
「そんなことより、今日から出張ですよね、、、、早く仕度しないとまた遅刻しますよ」
