そしてしばらく沈黙が続いたが、真弓が耐えられなくなり、どうでも良い話題を探して話し出す。
「山田さん、大学この近くでしたよね?学部はどちらなんですか?」
「法学部です。一応、親が弁護士だから、なんとなくの流れで弁護士を目指すことになってます。」
「あ、なるほど、へぇ~、弁護士を?へぇぇ、、、、、あ、そう?」
フラッシュモブなんて考えてる血筋はやっぱりこんなものかと、また山田の意外な一面を見た。
「でも、本当はやりたいこともあって。親には言えないけど、いろいろ迷ってます。」
山田は、初めて会った女性に対して本音をもらした自分にびっくりした様子で、2人を交互に見てそして恥ずかしそうに俯く。
逆に真弓と典子は、次々に意外な一面を見せる山田に興味が出てきた。
「えっ、えっ、なんですか?なにか夢があるんですか?漫画家とか?」
珍しく典子が積極的に質問したので、真弓は典子の顔を見てニヤリとした。
「すみません、なんか、お二人が話しやすくて、つい、、、忘れてください。」
山田と言えども、話しやすいと男性から言われると少し嬉しかったし、何より山田が苛めたくなるタイプなので、秘密を隠す山田を2人は少女のような顔で問い詰める。
「山田くん、そこまで言ってそれは無いんじゃないかなぁ?、、、よし、私達が聞いてあげるから、言っちゃおう、話して楽になっちゃお。」
そう言って顔を覗き込む2人に、山田は照れくさそうな顔で頭を掻く。
「姉にも言ってないので、内緒にしてくれますか?」
うんうんと、大きく頷く2人。
「実は僕、、、役者になりたくて、、、大学でこっちに出てきてから、小さな劇団に入ってるんです。」
「ほえー、役者に、、山田くん、俳優?、、すごいね、全然、そんな風に見えない、、なんかないの、動画とか、写真とか?」
2人は、山田の意外性の連打に興奮が隠せない。
「いや、それはちょっと、、、、、、あっ、ちょっと真弓さんっ!」
真弓は、照れる山田の携帯を取り上げる。
パスワードを強引に聞き出すと、アルバムを開いて勝手に写真を2人で凝視する。
他人の携帯の中身を見るだけでまた興奮してしまう2人だった。
「山田くん、、あんた相当、自分が好きね。」
写真は、ウエイトトレーニングをする姿や鏡の前で筋肉を見せつける姿など、自撮りの写真ばかりだった。
言葉には出さなかったが、山田の意外なマッチョぶりにも2人は顔を見合わせた。
「えっ?これ、山田?」
真弓が、舞台の上で金髪にあごひげ姿の山田の写真を見つける。
いつの間にか、『山田さん』から『山田くん』に、そしてとうとう『山田』へと呼び捨てになる真弓だった。
「そ、それは、去年の舞台で誘拐犯の役だったので、、、役に入ると、自分じゃ無くなるというか、、、よく、人が変わると言われます。」
真っ赤な顔で話す山田は、ほんとに写真と同一人物とは思えないように小さな声でオドオドしていた。
「やだ、なにこれ、山田のくせに、ちょっとカッコ良くない?全然、目付きが別人。」
山田に興味津々の真弓と典子は、遠慮なくアルバムにある全ての写真を見た。
山田のたくさんの歴史を写真から知り、あたかもずっと前からの知り合いであったかのような気分になった。
「あれ?山田、これ、彼女?」
唯一あった女性とのツーショット写真を指差し、典子が問い詰める。
典子が男性を呼び捨てにするのも初めてだった。
「え?は、はい、元カノとゆうか、、、、、、前に劇団で一緒だった人です。」
写真に写る彼女は、活発な女の子のようで、明らかに困惑する山田の腕に抱きついてピースをしていた。
きっと彼女に押し切られて付き合ったなのだろうと、2人には容易に想像が付いた。
2人は何故か山田の女性関係の地味さに安堵するところもあった。
夕食を食べ終えた3人は、そろそろお開きの空気になる。
「山田、この後はなんか予定あんの?」
真弓は、典子が男に興味を持つのが嬉しくて、このまま山田を帰したくは無かった。
「この後はボイトレ、、というか1人カラオケに行く予定です。」
「え、山田の歌聞きたい、聞きたい!ねぇ、一緒に行こ、聞きたいよね、真弓も?」
典子がまた珍しく積極的になった。
山田も特に嫌がることもなく、自然にカラオケに行く流れになった。
3人はカラオケに到着すると、ビールやカクテルを飲みながら順番に数曲ずつ歌った。
「山田ぁー、歌もイケてるじゃないかぁぁぁ?」
真弓が、少し酔っ払って山田の首に腕を回して絡む。
時々、見失う音程が愛嬌のある歌声だった。
「もぉ、真弓ぃ、、あんま酔っ払わないでよぉ、、、また、酔っ払うと帰ってからナプキンをトイレのドアに貼り付けたりとかするんだからぁ」
